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「給食室のひみつ」

様々な工夫と努力と心遣い

手間暇惜しまずおいしい給食を
すべては「子供のために」

Aoki

2000年3月29日(水)産経新聞静岡版”学びと教えの現場から”掲載

 「給食の先生は,一日に何回手を洗うでしょうか。」−給食室で働く人たちの仕事を学ぶとき,子供たちに出すクイズである。
 読者の皆様も,ちょっとお考えください。
 答えは三十回以上。「ひとつの作業を終えたら必ず手洗いする」が原則になっているからだ。
 そんな給食室では,子供たちのために,また,さまざまな努力や工夫がされている。これを"給食室のひみつ"と呼ぶ。今回は,どんな”ひみつ”があるのか……を紹介してみたい。

 ところは児童数八百人の小学校。朝早く,食材の納入業者が給食室前に段ボールやコンテナを下ろす。
 調理師Aさんは,これを給食室に運び入れる。このとき,段ボールのまま運んだりはしない。先に,専用のざるやボールに移すのだ。段ボールについた汚れや雑菌が室内に入ることを防ぐためである。運ぶ食材が,100キロを超えることもめずらしくはない。移し替えるだけでも大仕事。気をつけなければ腰を痛めてしまう。

■衛生面への気配り■


 調理が始まる。作業中,Aさんは,何度も時計に目を向ける。子供たちがとりにくる時刻に合わせて作るためだ。遅れるのは困る。が,ただ早く作ればよいというものでもない。
 早く作りあげて時間をおけば,冷めて味が落ちてしまう。また,傷みの出る怖れもある。時間配分に気をつかわなければならない。
 この日のAさんは生もの(肉,魚,卵など)を扱う係。肉を冷蔵庫から取り出しては手を洗い,魚に塩こしょうしては手を洗う。必要があれば,手を消毒し,前掛けも洗う。手荒れなど気にしてはいられない。
 次に,下ごしらえした肉や魚を大鍋まで運ぶ。このときの経路は決まっている。他の食材に触れるのを極力避けるためだ。生ものを扱ったAさん自身も,野菜を切る仕事には一切関わらない。衛生面への気配り,並々ならぬものがある。

■苦手なオカズも■


 大鍋の中の料理がほぼできあがると,Aさんは大きめな具の中に,中心温度計を差し込む。内部が75度以上あるかどうかを確かめるためだ。この温度を一分持続させれば,あのO−157も死滅させることができる。

 Aさん達の配慮は,衛生面だけでなく,味の面にも向けられる。少しでもおいしい給食を作ろうと,手間を惜しまないのだ。
 みそ汁のだしは鰹節で取る。サラダのドレッシングやシチューのルゥもできる限り手作りする。
 スープに入れるつみれもひとつひとつ丁寧に作っていく。市販品には香辛料が多く使われているからだ。八百人……一体いくつのつみれが作られるのか……。
 一方で,子供たちが苦手とするようなオカズも出さなけれならない。ここにAさんたちの工夫と腕のふるいどころがある。酢豚やきんぴら,これらには揚げたジャガイモを加える。また,野菜サラダには,細かく切ったフルーツを入れる。こうして,ぐっと子供好みの味になる。
 調理を終えたAさんたちは,新しい前掛けに着替える。「清潔な服装で子供を迎えてあげたい」という心遣いだ。

 給食は「作って終わり」というわけではない。食器や食缶,調理器具など,素材・用途に合わせ洗浄し,殺菌する。
 また,子供の残した給食の重さを調べる。残りが多い場合,Aさんたちは話し合いをもつ。「量が多すぎたのか」「子供の口に合わなかったのか」と,理由を検討する。これが,次の給食に生かされるのだ。
 Aさんたちには,こんな口癖がある−”子供のために”。この言葉を口にする回数は,手を洗う回数よりも多いかもしれない。
 「子供のために細かく野菜を切ろうよ」,あるいは「子供のために,もう少し味を甘くしようか」と…。

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